Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)で働いた経験から学んだのは、キャンペーンには2つのタイプがあるということである。
1つ目は、キャンペーン発信者が自分のキャンペーンによって、まだ多くの人が知らない社会的課題を発見し、のちに大きな影響力を発揮する場合である。こういう人たちはこれから顕在化するであろうトレンドを予測して、その問題をめぐる議論を主導する。そのキャンペーンはニュースとなり、短い時間で立法化されたり、新たな政策となることも珍しくないし、それ以外の形でも納得のいく成果を出せるのである。キャンペーン発信者は、時にはそのトピックのインフルエンサーとなることもあるし、自分を中心とするムーブメントを組織し始めることもある。このようにリーダーとしての力をつけて、彼らは変革を実現するために他者を支援し続けるのである。
2つ目は、課題が顕在化したあとにキャンペーンが立ち上がる場合である。すでに多くの人が話題にしている社会的課題を知ってから、初めてChange.orgのサイトを訪れる人も少なくない。こういう人たちは、従来のメディアや自分たちのソーシャルメディアのタイムラインで報道されたニュースを目にして、行動を起こすことを決意する。その場合、何かを見聞きし、その影響を受けることや同調することに納得ができないために、それと異なるアプローチを提案するのである。実際に何かが起こった後にキャンペーンを立ち上げる発信者として、彼らは話題となっているトレンディングトピックを利用することによって賛同を集めるのである。こうしたキャンペーンは、地域に根ざしたものか、影響が特定の地域に限定されているのが一般的である。問いかけは通常、動詞で始められる。もし政策の決定権者に注目してもらえた場合は、発信者は社会的影響力のある市民となり、自分たちのコミュニティにおける日々の生活に積極的に関わっていくことになる。
上記の枠組みを踏まえて、私たちは新型コロナウイルスのパンデミックをめぐって、いくつかの質問を自らに問いかけてみた。私たちのプラットフォームにどのような変化が起きたのか? 私たちのユーザーたちは、彼らのキャンペーンにおける問いかけを通じて、パンデミックの発生を想定していたのか? それとも、ニュースを聞いて驚いて、対応をとろうとした人が大部分なのか?では、データをもとにその実態を見ていこう。
新型コロナウイルス関連のキャンペーンの分布曲線
以下に示すのは、Change.orgで立ち上がったキャンペーンのうち、このプラットフォームがサポートしているすべての言語でパンデミック関連のキーワードに言及しているものの数を示したものである。これによれば、新型コロナウイルス関連のキャンペーンの最初のものは1月末に出されているが、その数が増え始めたのは2月末になってからのことである。その後、キャンペーンの数は安定的に推移するが、3月初めに世界規模での感染拡大を受けて急増するに至る。
新型コロナウイルスが原因で死亡した1人目の患者は,1月11日に中国の武漢で亡くなったと記録されている。しかしながら、12月31日以来、中国当局は数十人の患者が治療を受けていると報告しており、この日付がパンデミックタイムラインのもっとも初期の始まりだと現在では考えられている。1月20日、WHO(世界保健機関)は最初の状況報告書を発表したが、それには日本、韓国、タイで確認された感染数が記載されている。米国で最初の感染が報告されるのはその翌日の1月21日のことであった。キャンペーン数の増加曲線がその日を境に上昇したのは偶然ではない。
Change.orgのプラットフォームで新型コロナウイルス関連のキャンペーンが最初に立ち上がったのは、まさに1月21日のことだった。しかし、ロシアのピエール・ベサンコンが立ち上げた“Построить стену на границе Европы и Азии(ヨーロッパとアジアの境界に壁を建設せよ)”と題するこのキャンペーンに集まった賛同数はたった1つで、それもおそらく発信者本人によるものだったようだ。
その翌日、さらに4件のキャンペーンが立ち上がった。そのうちの1件は特に重要な意味をもつもので、5万の賛同を集めてマイルストーンとなった。それはイタリアのユーザー、ヴェラ・カタラーノを発信者とする、“Coronavirus pandemia: è venuto il momento di chiudere i mercati che vendono animali vivi!(生きた動物の肉を売買する市場を禁止する時が来た!)” と題するキャンペーンであった。
2日後には、さらに3件のキャンペーンが立ち上がり、そのうちの1件は10万の賛同を集めた。それは、“LIVES MATTER. Support Taiwan’s Participation in the World Health Organization 支持臺灣參與世衛組織(命は大切。台湾のWHOへの加盟を支持しよう)”と題するキャンペーンで、「台北のS.C.」とだけ名乗る発信者によって立ち上げられた。次に同様のマイルストーンに達したキャンペーンは、1月26日にシンガポールのアナタシャ・アブドラーによって立ち上げられたもので、“Stop the Wuhan virus from entering Singapore(武漢ウイルスがシンガポールに入るのを阻止しよう)”というものだった。このキャンペーンは5日後に成功が宣言された。シンガポール政府が、14日前まで武漢に滞在していた旅行者の入国を禁止することを宣言したのである。
500以上の賛同が集まった新型コロナウイルス関連の最初のキャンペーン10件
2020年3月以前に新型コロナウイルス関連のキャンペーンが立ち上がった国トップ10
順位 | 国 | 賛同数 |
1 | カナダ | 1,592,034 |
2 | シンガポール | 262,770 |
3 | イギリス | 241,325 |
4 | 米国 | 223,804 |
5 | 香港 | 154,043 |
6 | 台湾 | 141,102 |
7 | チリ | 107,698 |
8 | ニュージーランド | 101,874 |
9 | オーストラリア | 94,991 |
10 | ロシア | 82,615 |
3月の流行発生以前でも、新型コロナウイルスの問題に関わるキャンペーンに集まった賛同は334万にも及んだ。その時点までは、パンデミックは主としてアジア諸国を襲っていた。このことは、初期の段階で関連するキャンペーンが立ち上がっていたトップ10か国のうち6カ国がアジアのタイムゾーンに属する国であることを示す上記の表から分かる。
ウイルスの脅威に強く反応した最初の国がカナダであることを指摘するのは興味深いことである。この初期の段階で、同国の人々は積極的にアクションを起こしており、航空機の乗り入れ禁止、予防措置の実施を求めるキャンペーンがいくつか立ち上がり、国のリーダーたちににそれらの方策に基づく行動を要求し、結果的に2020年3月にはそれらが実施されるに至っている。
新型コロナウイルス関連のキャンペーンによって達成された最初の3つのマイルストーン
マイルストーン | キャンペーン | 開始日 | 国 | 賛同数 |
最初の新型コロナウイルス関連のキャンペーン | ![]() | 1月21日 | ロシア | 1 |
意義ある新型コロナウイルス関連のキャンペーンの第1号 | ![]() | 1月22日 | 米国 | 49 |
最初に5万の賛同を集めた新型コロナウイルス関連のキャンペーン | ![]() | 1月23日 | イタリア | 53,258 |
規模はそれほど大きくないが、ニュージーランドのユーザーたちもまた、カナダと同様の措置をとるように訴えて、初期の段階から積極的にアクションを起こしていた。太平洋の南西部に位置するこの島国は、政府による効果的で迅速な対応と国民の協力によって、パンデミックを制御した好例のひとつとなった。
結論として、新型コロナウイルス関連のトピックをキャンペーンとして立ち上げたしたユーザーたちは、2番目の流れを追っており、日々のニュースに対抗するツールとしてChange.orgを利用してきた、と推論することができる。パンデミックの初期から数えると、成功が宣言されたキャンペーンは全部で1,827件であり、集まった賛同は合計で1,049万3,898にも及んだ。彼らは、その過程でさらに社会的影響力のある市民として成長し、自分たちのコミュニティにおける生活の中で積極的な関与をしていったのである。