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恵まれない人々への声

ブラジルでは、経済格差がウイルスと同等の脅威に

2020年3月初め、新型コロナウイルスがついにブラジルの主要メディアで最大のテーマとなった。1人目の感染者は、イタリアへの旅行からの帰国者で、主要メディアでトップを飾るニュースとなったのである。その頃、ヨーロッパやアジアでは感染者と死亡者が急増していた。

3月16日、ブラジルで最初の新型コロナウイルス関連の死者が出た。そしてその翌日、ブラジル最大の都市は、国内では前例のないほど長期に及ぶ社会的孤立状態に突入する。それ以降、私たちは膨大な人口を抱えるブラジルが低所得と公衆衛生の不備が相まって、きわめて危険な状態に陥ったことを痛感させられることになる。わが国には、人工呼吸器など特別な医療支援を必要とする患者が急増する状態に対応できるだけの体制が整っていなかったのである。

新型コロナウイルスによる死者が増加する中、わが国の政治指導者たちは、事態を甘く見るか無視し続け、社会的、経済的な危機の到来から目を背けていた。しかし、もう逃げ道はなかった。危機はすでに到来していたのだ。

多くの専門家が予測したように、パンデミックはブラジル社会の深い闇を露わにしていった。富裕層は検査を受けたり、私立病院に入院して手厚い看護を受けたり、社会的隔離をすることができたが、それ以外の人々は公立病院で病室の空きを待ちながら彷徨ったり、きわめて感染のリスクが高い状態で仕事をせざるを得なかった。これはまさに、アマゾナス州の州都マナウスで実際に起きたことであった。同市の崩壊はあっという間だった。マナウスは愛する人に別れを告げることもできない、それどころか埋葬することもできない多くの家族の絶望にあふれたのである。

社会的隔離が現実問題となってきた頃、さまざまな状況における新型コロナウイルスに関する対応が、不安、怒り、そして連帯を生み出した。人々は、インターネットにアクセスして画面をクリックするだけの「クリックティヴィズム」やカウチ(ソファー)に座って議論するだけの「カウチアクティヴィズム」を社会的動員の現実的選択肢として受け入れられるようになってきた。街頭に出て抗議活動を行うのではなく、インターネットを利用することが、仲間を募る主要な手段となり、感染を恐れることなく変化を促すための唯一の安全な手段となったのである。今回の新型コロナウイルス危機をきっかけとして、何百万人もの人々がオンラインのキャンペーンに参加したり、立ち上げたり、支援するようになったのである。

Change.org(ブラジル)は、アクセス数の急増とかつてないキャンペーン数の増加を経験した。全国から、さまざまなニーズや要望をかかえた人々がアクセスし、リアルな行動を要求し始めたのである。Change.orgの集計によると、新型コロナウイルスの感染が最初に確認されて以来、新しく立ち上がったキャンペーンの数は160%も増えたのである。週平均のキャンペーン数は、200件から700件に達した。2月26日から5月18日の間に、ブラジル全土で新型コロナウイルスに関連する3,400件のキャンペーンが立ち上げられた。この数は、私たちのサイトで2020年にスタートした全キャンペーン数の半分以上(51%)に達する。

このように断固たる社会的主張が多いことから、私たちはコロナウイルス関連のキャンペーンをまとめたサイトを発表し、#LuteEmCasa(ポルトガル語で「ファイト・アット・ホーム(家から戦おう)」)というコミュニケーションキャンペーンを通じて拡散した。

このサイトを通じて、ユーザーは新型コロナウイルスだけでなく、不正義、人種差別、社会的弱者などの問題と戦うブラジル人のストーリーを知ることができる。これらは、多くのブラジル人が苦しんでいる貧困状態や直面している問題と通ずる点が多く、共感を呼んだ。

そうしたキャンペーンのひとつに、ジュリオ・ランセロッティ神父によって始められたキャンペーンがある。これは、サンパウロ州の州都のホームレスへのシェルターや衛生用品の提供を求めるもので、46万を超える賛同を集めるとともに、多くのインフルエンサーやメディアからの支援を獲得し、サンパウロ市の市長も反応を示した。

その一方で、ロックダウンと社会的隔離という環境下で、特定の職業が、重要な役割をもつようになった。例えば、デリバリーアプリの配達業務に従事する労働者は、たちまちのうちに過重労働と感染の高い危険性に見舞われることになった。こうした状況に対応して、配達員のパウロ・リマは配達会社に対して、マスクと消毒用ジェルを従業員に配付することを求めるキャンペーンをスタートさせた。このキャンペーンは、配達員たちが直面している実際の状況が明らかになるにつれ、急速に広がっていった。約37万人がこのキャンペーンに賛同し、今回の危機の中で欠かせない役割を果たす労働者の労働環境を改善するという、非常に重要な課題を扱うソーシャル・ムーブメントに火を付けるきっかけとなった。

ブラジルでは、新型コロナウイルス感染症が、その病理面だけでなく、ブラジル国内に蔓延する不平等ゆえに人々の生死を左右する問題となっている。Change.org(ブラジル)でスタートしたキャンペーンのひとつであるJustice for little Miguel(ミゲルくんに正義を)は、その悲惨な現実から大きな反響を呼んだ。約300万人が、ミゲルという名前の5歳の少年に正義を求めるキャンペーンに署名したのだ。

家庭内労働者の息子であるミゲルは、エレベータ一でひとり残され、ペルナンブコ州レシフェの上流中産階級のビルの9階から落下したのである。ミゲルの母親であるミルテスは、雇用主から仕事に来るように命じられたため、家で仕事をするわけにいかず、息子を連れて仕事に行くしか選択の余地がなかった。ミゲルが落下したのは、ミルテスが雇用主の犬を散歩に連れていっている最中のことだった。人種差別、虐待、養育放棄が重なったこの問題で、ブラジル中がミゲル少年の死を悼んだ。これは、ブラジル全土にショックを与えた犯罪だった。 

新型コロナウイルス感染が流行し始めて以来、ブラジルでは1,000万人を超すユーザーが、よりよい生活環境を求めるキャンペーンに賛同した。これらのキャンペーンの中心をなす要求は、恵まれない人々を最優先することであり、このトレンドは世界中に広がっている。世界最大のオンライン署名サイトのスタッフとして、私たちもそれを求めている。

筆者: モニカ・ソウザ
エグゼクティブ・ディレクター(Change.org ブラジル)