データから読み解く市民レベルでのオンラインムーブメント
独自のデータ算出方法を使って、何が人々の関心を引きつけ、何がアクションを起こすきっかけとなるのかを読み解いています。コロナウイルスがきっかけでオンラインで起こった変化をさらに深く見てみましょう。
最初に公開された日:2020年8月25日
ールーカス・プレッティ と オルガ・ムイエーニによってまとめられました
これから生まれる世代はいつか、コロナウイルスがいかに突然始まり、肩書きも年齢も経歴も関係のない無防備な人類に対する襲撃のように急速に感染が拡大していったのかという話を聞くことになります。これはコロナウイルスの無情さや、多くの政府機関の対応の遅さ、保険システムの不安定さを考えると決して大袈裟な表現などではないのかもしれません。
しかし、このような切り口で彼らに話を伝えてしまうと、コロナ禍とはただ感覚が麻痺した私たちが、両手を広げて受け入れることしかできかったように聞こえてしまいます。未来に生きる彼らは、2020年の人類はただ単に肩をすくめて傍観していただけだったのかな、と考えてしまうかもしれません。いかがでしょう?これは決して真実なんかではないと思うのです。
このレポートを読んでいただくと、世界的にソーシャル・ディスタンスやロックダウンが実施される中で、私たちがただコロナウイルスを前に力なく降参したわけではなく、むしろこれまで前例がないほどに人々が声をあげ、立ち上がり、変化を起こしたのだということがお分かりいただけると思います。一つのトピックがこれほどまでに世界中で話題になったことは、ここ何十年のうちで初めてなのではないでしょうか。急速に進むデジタル化、そして「ニューノーマル」に続き、コロナウイルスはオンラインから始まるムーブメントにおける新しい時代の到来を告げました。
市民レベルで起こったオンラインムーブメントのバロメーター
Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)は、「変えたい」気持ちを形にできる世界最大のオンライン署名サイトです。現在は世界196か国、12の言語で4億600万人のユーザーが「変えたい」と感じる社会課題を解決するツールとして利用しています。1日平均で全世界で3,155件のキャンペーンが立ち上がり、289万6,297の賛同が集まり、ソーシャルメディアでは97万1,004回シェアされ、まだ継続中のキャンペーンページ上では671件の進捗状況が投稿されており、また44件の成功宣言(キャンペーンを立ち上げた人が、署名活動を通じて何らかの変化が起こせた旨を宣言し、キャンペーンを終了すること)がなされています。これらの一つ一つのデータには、ポジティブな変化を起こすために立ち上がった世界中の人々のストーリーが詰まっています。
Change.org財団では、この7ヶ月間で集まったデータをもとに、トレンドを把握し、人々の動きを分析するための専門チームを作り、各国のチームから集まった情報からは多くのことを学びました。その結果、今こうして読んでいただいている「新型コロナウイルス パンデミックレポート」として一般に公開されるに至りました。
このレポートでは、Change.orgプラットフォーム上で起こった、市民参加型のオンラインムーブメントに対する行動データをもとに、それらを分析的に読み解くための手法を紹介します。この手法を使うと、時が経つにつれ人々が感じる不安や、起こす行動はどのように変わっていくのかを知ることができ、また、各国で比較可能な計測方法を作ることが可能になります。
データを読み解くための指標と手法
Change.orgのデータチームは、市民レベルで起こったムーブメントをさらに分析するため、下記の3つの指標を基準に見てみることにしました。これらの指標は、Change.org上で立ち上がったキャンペーンの総数と、キャンペーンに集まった賛同の合計数、新規ユーザーの割合をそれぞれ考慮しています。
指標 | 測れるインパクト | 測り方 |
---|---|---|
新規キャンペーン開始率📄 | 起こったアクション | ある一定期間内に立ち上がったキャンペーンの総数を比較する |
賛同率 ✍️ | 得られたサポート | ある一定期間内でキャンペーンに集まった全ての賛同数を比較する |
ユーザー増加率 👤 | サイトの認知度 | ある一定期間内でのChange.orgユーザーの総数を比較する |
下記の2つの観点から、これら3つの指標にはそれぞれ関連性があると言えます。
まず第一に、この指標は今年と昨年の同じ期間内での比較を基準にしており、2020年1月から7月までと、2019年1月から7月までの7ヶ月間でChange.orgで起こったアクションを比較しています。
第二に、この指標は単に合計数の大小のみに基づいて結果を示しているのではなく、日々変化するユーザーの増加率も考慮に入れて計算されています。つまり、相対的に比較がなされている、ということが言えます。
計算方法は以下の通りです。

さて、それぞれの数字をより細かく見てみましょう。

合計を3で割っているため、 3つの指標はそれぞれ同じようにウェイトを占めていることが分かると思います。つまり、Change.org上でのインパクトを測るには、起こったアクション、得られたサポート、そして認知度は、オンライン上でムーブメントが起こる上でどれも等しく重要な要素なのです。
この表は、Change.org上で最もユーザー数が多い25か国を比較するために作成されました。さらに 元データの詳しい情報をご覧になりたい方は、ページ下部からご覧いただけます。
市民レベルで起こったオンラインでムーブメントの指標 (2020年中期)
国別のスコアをランキング形式でまとめましたので、早速見ていきましょう。
順位 | 国 | キャンペーン増加率 | 賛同増加率 | ユーザー増加率 |
1 | 🇿🇦 南アフリカ | 227.60% | 1,063.19% | 600.40% |
2 | 🇯🇵 日本 | 219.67% | 150.56% | 41.37% |
3 | 🇨🇦 カナダ | 98.85% | 206.79% | 44.29% |
4 | 🇺🇸 アメリカ合衆国 | 93.40% | 217.13% | 40.18% |
5 | 🇵🇪ペルー | 66.34% | 162.90% | 62.78% |
6 | 🇬🇧 イギリス | 118.94% | 115.63% | 19.79% |
7 | 🇲🇾 マレーシア | 150.06% | 160.83% | 61.81% |
8 | 🇰🇷 韓国 | 23.42% | 122.73% | 11.15% |
9 | 🇵🇭 フィリピン | 42.52% | 166.90% | 58.01% |
10 | 🇳🇿 ニュージーランド | 28.98% | 76.65% | 25.83% |
11 | 🇨🇴 コロンビア | 125.44% | 115.28% | 63.14% |
12 | 🇮🇳 インド | 104.37% | 58.90% | 77.10% |
13 | 🇮🇹 イタリア | 125.72% | 9.44% | 13.81% |
14 | 🇪🇸 スペイン | 68.51% | 4.40% | 6.01% |
15 | 🇧🇷 ブラジル | 99.34% | 43.62% | 54.89% |
16 | 🇫🇷 フランス | 64.02% | 22.36% | 13.23% |
17 | 🇨🇱 チリ | 32.50% | 47.24% | 43.89% |
18 | 🇦🇺 オーストラリア | 20.39% | 33.47% | 22.47% |
19 | 🇦🇷 アルゼンチン | 61.95% | 35.76% | 33.23% |
20 | 🇲🇽 メキシコ | 19.53% | 45.70% | 34.88% |
21 | 🇩🇪ドイツ | 45.40% | 23.56% | 27.27% |
22 | 🇹🇷 トルコ | 41.65% | 6.79% | 7.15% |
23 | 🇷🇺 ロシア | 37.15% | -16.30% | 10.76% |
24 | 🇹🇭 タイ | -19.58% | -63.49% | 4.31% |
25 | 🇮🇩 インドネシア | -50.50% | -82.23% | 14.71% |
世界平均 | 80.23% | 81.51% | 32.80% |
それぞれの列が示すデータ:
キャンペーン増加率 📄
2020年に立ち上がったキャンペーンの数を2019年の同時期に立ち上がったキャンペーンnの数と比較したもの
賛同増加率 ✍️
2020年に寄せられた賛同の数を2019年の同時期に寄せられた賛同の数と比較したもの
ユーザー増加率 👤
2020年の増加率を2019年の同時期の増加率と比較したもの
この指標は、コロナ禍においてオンライン上でおこる社会課題に対してのアクションに増加が見られた国はどこかを客観的に示すものであり、「どの国が最もChange.orgに貢献したか」を表す指標ではありません。
ランキングをより深く読み解くために、これらの3つの国を例にして見てみましょう。
🇿🇦 南アフリカ -南アフリカでは今年、既に400万人以上の新規ユーザーがChange.orgを利用しています。前年の同じ期間に比べて6倍も高い数値になっていることが分かります。また、集まった賛同数は10倍に、新しく立ち上がったキャンペーンの数は3倍に増加しました。これら3つの指標の伸び率は全て、他のどの国よりも高く、南アフリカは群を抜いて1位という結果になりました。
🇯🇵日本 -日本では、2020年1月から7月の間で2,700件のキャンペーンが新しく立ち上がりました。これは前年の同時期と比べても、3倍以上に増えていることが分かります。集まった賛同数は前年よりも2.5倍増加し、キャンペーン数・賛同数・新規ユーザー数の全ての指標において、Change.orgのオフィスがある19か国の中で最も増加率が高い国となりました。
🇵🇪ペルー -ペルーでは今年、合計300万近くもの賛同が集まりました。この増加率は過去最高で、前年比2.5倍という結果になりました。南アフリカとフィリピンを除くと、ラテンアメリカ諸国は南半球において最も高い賛同数の伸び率を記録しています。また、200万人以上のペルーの人々が新しくChange.orgを利用し始めました。
新型コロナウイルスは、これらの数値と本当に関係があるのでしょうか?
私たちも同じ疑問を自らに投げかけました。25か国のうち22か国において、集まった賛同数に増加が見られ、世界平均にするとプラス81%に及びます。25か国のうち23か国で、立ち上がったキャンペーンの数は世界平均で80.23%増えました。ユーザーの増加数も、世界中で増加が見られました。
それは全て新型コロナウイルスが理由だったのでしょうか?大まかにいうと、答えは「イエス」です。早速データから何が読み取れるのか見てみましょう。
下記のグラフはそれぞれ、ランキングの順位に沿って国ごとに並んでいます。太い線が示すデータは、全キャンペーンに集まった賛同数のうち、コロナウイルスに関連するキャンペーンへの賛同数が占めた割合です。
例えば、太線の数値が60%だとすると、その週に集まった全ての賛同数のうち、60%がコロナウイルス関連の賛同が占め、残りの40%は他のトピックに集まった賛同だった、ということになります。このことから、太線が示す数字は、その国の中で毎日のように議題になっていたコロナウイルスとの関連性レベルと位置付けることができる、と言えます。
一方、色の薄い直線は「トレンドライン」と呼ばれるもので、コロナウイルスとの関連性の平均数値をもとめ、週ごとの傾向を分かりやすくするためにチャート上に引いた補助線のことを言います。これは、データの大まかな流れを把握し、メインの太線の上昇と下降のトレンドを知るのに役立てられます。
週ごとの合計賛同数における新型コロナウイルス関連の割合
グラフが示す通り、10か国において、コロナウイルスの感染拡大が人々が声を上げるムーブメントを加速させる大きなきっかけになったことが分かり(紫色のグラフ)、9か国では、コロナウイルスは重要なきっかけではあったものの、決定的な役割を果たしていたとまでは言えないという結果が出ています(赤色のグラフ)。また、残りの6つの国では、市民レベルでのムーブメントと新型コロナウイルスの関連性は見られない、ということが読み取れます(黄色のグラフ)。
下のランキングは、人々が市民レベルで声を上げるムーブメントとコロナ禍との間に、どの程度関連性があったのかを国ごとに示したものです。その数値は、過去7ヶ月で集まった全ての賛同数のうち、コロナ禍関連のキャンペーンに集まった賛同数の割合で表されています。表示されている国の順番は、前述の3つの指標を基にしたランキングに沿ったものです。
市民レベルでのムーブメントにおける、新型コロナウイルスの役割
順位 | 国 | 関連性 | 新型コロナウイルスの役割 |
1 | 🇿🇦 南アフリカ | 23.76% | 主要な役割 |
2 | 🇯🇵 日本 | 24.96% | 主要な役割 |
3 | 🇨🇦 カナダ | 12.38% | 主要ではないが重要な役割 |
4 | 🇺🇸 アメリカ合衆国 | 11% | 主要ではないが重要な役割 |
5 | 🇵🇪ペルー | 26.94% | 主要な役割 |
6 | 🇬🇧 イギリス | 16.78% | 主要ではないが重要な役割 |
7 | 🇲🇾 マレーシア | 26.79% | 主要な役割 |
8 | 🇰🇷 韓国 | 2.37% | 二次的な役割 |
9 | 🇵🇭 フィリピン | 34.70% | 主要な役割 |
10 | 🇳🇿 ニュージーランド | 37.35% | 主要な役割 |
11 | 🇨🇴 コロンビア | 14.42% | 主要ではないが重要な役割 |
12 | 🇮🇳 インド | 28.35% | 主要な役割 |
13 | 🇮🇹 イタリア | 15.96% | 主要ではないが重要な役割 |
14 | 🇪🇸 スペイン | 25.07% | 主要な役割 |
15 | 🇧🇷 ブラジル | 27.01% | 主要な役割 |
16 | 🇫🇷 フランス | 11.19% | 主要ではないが重要な役割 |
17 | 🇨🇱 チリ | 12.48% | 主要ではないが重要な役割 |
18 | 🇦🇺 オーストラリア | 10.64% | 主要ではないが重要な役割 |
19 | 🇦🇷 アルゼンチン | 7.42% | 二次的な役割 |
20 | 🇲🇽 メキシコ | 5.20% | 二次的な役割 |
21 | 🇩🇪ドイツ | 8.80% | 二次的な役割 |
22 | 🇹🇷 トルコ | 5.46% | 二次的な役割 |
23 | 🇷🇺 ロシア | 28.10% | 主要な役割 |
24 | 🇹🇭 タイ | 6.70% | 二次的な役割 |
25 | 🇮🇩 インドネシア | 19.67% | 主要ではないが重要な役割 |
数値の背後にあるストーリーと傾向
4億人以上の人々から算出されたデータから読み取れることは、単にパーセンテージやランキングなどの数値的なデータだけではありません。このデータは、コロナ禍において人々が求めているものは何なのか、市民レベルで声を上げるムーブメントとはどのように変わってきているのかについても教えてくれています。
私たちは、この指標は多様な角度から読み取ることができると信じています。まずはコロナウイルス感染拡大を受けての人々の率直な反応を知るバロメーターとして、もしくは役人やそれぞれの国で政策決定権を持つ人々がどのように問題に向き合ったかに対する評価軸として、そして社会的・経済的に広がった影響への要望として。しかしそれ以上に、これらのインサイトは、私たち大人だけでなく、将来を担う若者たちが、歴史的にも特異なこの期間に世間が何を思い、どのような反応を見せたのかを知るための大きなヒントになるのではないでしょうか。
このレポートの内容が全て詰まったフル版では、世界12か国で活躍中のChange.orgスタッフが寄稿した、洞察力に富んだレポートを読むことができます。数字を見るだけでは分からない、以下の3つの疑問への答えの手がかりになるかもしれません。
人々は何を求めているのか
何が変わったのか
私たちが学んだこととは
これらのレポートは、Change.orgスタッフが実際に世界各地で目にしたストーリーや、ユーザーとの交流を通して気づいたトレンドを、データを元にした視点からまとめられています。 アルゼンチン, ブラジル、, フランス, ドイツ, インド, インドネシア, イタリア, 日本, メキシコ, スペイン, タイ, そして アメリカで起こったチェンジを、どうぞお読みください。.
データについて
上記のデータでは、ユーザー数の観点において世界で最もChange.orgが使用されている国の情報を表示しています。加えて、2019年12月30日から2020年7月31日の7ヶ月間で立ち上がり、なおかつ最低でも10人から賛同が集まった25万306件のキャンペーンデータを元に分析しています。
その中でも、どのキャンペーンが実際にコロナウイルスとの関連性があったのかを特定するために、12の言語(英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ヒンディー語、日本語、タイ語、インドネシア語、ロシア語、トルコ語)において、キャンペーンのタイトルや本文に関連性のある言葉「新型コロナウイルス」「コロナ」「ロックダウン」を抽出できるクエリを使用しました。その結果、36,197個のキャンペーンが該当しました。
Change.orgのオフィスが存在している、もしくはスタッフがいる国は、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、ロシア、スペイン、イギリス、アメリカ、タイ、トルコの19か国です。
これらのデータは常に変動するものであり、決して最終的な結果というわけではありません。これからもChange.org上で声を上げ、ムーブメントを起こす人がいる限り数字は変わり続けます。あくまでも現時点の「傾向」として捉えてください。
私たちは今後も、感染拡大がある程度 “収束” した、と言える時が来るまで、隔月でこれらのデータを更新してきます。時間の経過とともに発展・成熟していくムーブメントの様子や、それがコミュニティ規模でどのような意味をもたらすのかを、より深く理解できるようになることを目指しています。